江戸時代の小型ディルド「久志理」・「勢々理」
女性専用の大人のおもちゃ「久志理」・「勢々理」
(図1)『艶道日夜女寶記』
「久志理」(くじり)または「勢々理」(せせり)とは、張形を小さくしたものである。
『艶道日夜女寶記』(図1)((明和期-1770年頃)には絵を添えて、
くじり。
ちいさきはりかたなり。
つかひやうは、ゆにてあたため、ゆびにきせ、あなのうはつらをこそぐるがよし。
とあり、それに並べた図は「くぢるていかくのごとく」であり、その使い方を絵で表している。
この図は、人差指に「くじり」を指サックのように被せて、女性器に半分ほど差し入れた絵で、分かりやすい表現で描かれている。
『艶道日夜女寶記』
形状は普通の張形ですが、サイズがかなり小さくなっている。 素材は、鼈甲や水牛の角で出来ているが、男性が前戯用の道具として使うだけでなく、女性が自慰用として、自分の指に填めて「さねがしら」(クリトリス)を刺激するのにも使用した。
『閨中紀聞枕文庫』初篇
また、『閨中紀聞枕文庫』初篇(文政五~1822年)には、(図2)「久志理」の絵の添え書きとして、
年増の女など、ひとりねのまくらさみしきに、もちゆる具なり。
はりかたのちいさきものなり。
べっこうつのにてつくる。
とある。
ここでは、男が前戯用に使うものではなく、「枕淋しい年増女」がオナニー用の道具(オナニーグッズ)として記されている。
『好色訓豪図彙』(図2)
文献的に古いところでは、『好色訓豪図彙』(図2)((貞享三-1686年)の「器財」に、「吾妻形」(あづまがた)とともに図示され、そこには「嬲」(せせり)と記載されている。
これから少し時代が下がった『好色旅枕』(元禄八-1695年)には、「張形」と「吾妻形」とともに図示され、ここも「嬲」(せせり)と説明書きがある。
この張形を小さくした「久志理」と「勢々理」は、同じグッズの事を言い、俗説によれば、一本の指全体を差し込んで操作するのを「久志理」と称し、指先だけに填める短いものを「勢々理」と呼んだらしい。
江戸の秘具・秘薬の専門店「四つ目屋」の引札(宣伝書き)に、秘具を列記した中に「ゆびにんきやうせせり」とある。
漢字を充てると「指人形勢々理」となり、指先で女陰を弄する時の「せせり」道具という事になる。
「せせる」は、元々 「突っつき探る・ほじくる・弄くる」の意味であり、「くじり」は「挟る」であり、これもまた「穴に指を入れて穿る(ほじくる)」の意である。
艶本の戯作『婚礼秘事袋』(宝暦期-1756年頃)には、「嫁閨中手道具の類」として閨中の秘具が並んだ中の一品として、「くじり」が図示されている。
これで見ると、「くじり」は自慰用ではなく、男女の閨中に用いる前戯の具であると思われる。
『女大楽寶開』(図3)
また、江戸中期の色道指南書『女大楽寶開』(おんなたいらくたからべき)(図3)((宝暦初-1755年頃)には、「こんたん道具の図。
並につかひやうの事」として、「くぢり」の説明に、
是もゆにてしめし、ゆびにきせ、玉もんをくぢるなり。
とある。もう少し時代が下がった指南書 『百人一出拭紙箱』(ひゃくにんいっししょくしばこ)(安永期-1775年頃)には、色道調度類を陳列した中に、箱に入った一物が図示され、
嬲。くじり。ゆにひたし、ゆびにさし込、つびをくじるなり。
とあり、文献の著者の違いによって「嬲」という漢字が、「せせり」とも「くじり」とも両方に読まれている事が分かる。
『教訓女才学』(図4)
さらに時代が下がった 『教訓女才学』(図4)(文政六-1823年)には、狂歌を添えた「くぢり」と薬缶と茶碗の絵があって、
くぢりをばゆにあたためゆびにはめ つかへば女気ざすなりけり。
とあり、いずれにしてもお湯で暖めてから指に填め、男性が指に填めるにしても女性が自慰用に使うも、女陰を弄する大人におもちゃである。 これを男性が指先に填めれば、指の爪で女性器を傷つける事もないし、女性の愛液に男性の指がまみれる事もないので、色々な意味で重宝されたようである。
くじる時親指実の舵を取り・葉末
この「くじり」を使う場合、ただ指先だけでピストンしても、支える箇所がないと動きが不安定になる。
そこで親指でクリトリスを押さえて固定させ、たまには揺り動かしながら、女竅へ差し入れる。
または二本指を小刻みに出し入れをし、揺すり動かしたりする。
親指はそんな微妙な動きの支点の働きをするのである。
「物事がうまく進行するように計らう」という俚諺の「舵を取る」を利かせ、それを下世話的に使った面白さである。